長山智香子 2005 Nikkei Voice あずみ

Nikkei Voice February 2005 Issue

「あずみ」:刺客少女のアクション・コミック

 

11月24日より28日まで、第8回Toronto Reel Asian International Film Festivalがトロント市内の会場で行われた。カナダやアメリカに在住するアジア系映像作家による作品はもとより、中国、香港、タイ、韓国や日本からの作品も上映された。長編・短編の劇映画、ドキュメンタリー、実験映画などさまざまな形式を通じて、映像文化が照らし出す時代の最先端を体感することができた。ここでは最終日に上映された長編映画『あずみ』を紹介したい。
小山ゆう原作の全25巻の人気コミックをもとにした映画『あずみ』(監督:北村龍平)は、2003年5月10日から日本全国の東宝系劇場で公開された。徳川家康が関ヶ原の戦いに勝利した直後、1600年代初頭の歴史を背景にして、刺客として育てられた若者たちの命を賭した闘いを描いたアクション・ドラマである。主人公あずみを演じた上戸彩は初主演ながら、この映画で第27回日本アカデミー賞優秀主演女優賞・新人俳優賞へのノミネート、第41回ゴールデン・アロー賞映画新人賞受賞などの評価を得ている。劇場公開のあと日本ではDVDやビデオの売り上げとレンタルで好成績を見せ、国際的にも、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、香港など世界21カ国で公開され、米サンダンス映画祭、ブリュッセル国際ファンタジー映画祭などへも出品されるなど、注目を集めてきた。カナダではすでにDVDが発売され、カルト的人気を誇っていたが、トロントではこの映画祭で初めてスクリーンで観る機会を得ることとなった。

この映画の見どころは、主演の上戸彩ら若手役者陣に本格的な殺陣を仕込み、スタントは最小限にとどめて迫真に迫ったアクションをみせることだろう。「ニンジャ映画」と誤って紹介されることもあるようだが、主人公の若者たちは剣で人を殺める刺客であって、映画の中でも「忍者ごときに負けはしない」とその卓越した戦闘技術を自認している。身のこなしの軽さと素早さはニンジャ、緊張感あふれる剣での果たし合いはサムライ映画と、ひと粒で二度おいしい娯楽活劇となっている。そして殺陣シーンで飛ぶ血しぶきの派手なこと!北村監督の長編デビュー作「VERSUS-ヴァーサス-」を彷佛とさせる過剰な表現で観る者の度胆を抜く。殺陣の生々しさに対して、敵キャラクターは極めてコミカルに描かれていて、緊張感の高まるなかで思わず笑いがもれる仕掛けとなっている。

あずみは母親と死に別れ、爺(原田芳雄)によって他の9人の仲間とともに刺客として育てられる。爺の命令で仲間同士で殺し合いを強いられ、勝ち残ったあずみら5人は使命を果すために山小屋を出発する。若者たちの使命とは、徳川天下の平安を撹乱する浅野長政(伊武雅刀)や加藤清正(竹中直人)を暗殺することだ。

映画化にあたって原作者の小山ゆうは「少女が並みいる大男たちをぶった切る、ということに説得力のある演出ができれば、原作の枠を超えたすばらしいものになると信じています」とコメントを寄せた。あずみが刺客少女であること−つまり「男ではない」と同時に「男よりも強い」こと−をこの映画はどのように描いたのか。まずあずみは強さと繊細さの両面を持つ存在である。5人の刺客なかでも最も卓越した能力をもちながら、仲間の死に接して刺客としての生き方を迷い、自らの強さの意味を問うのだ…ふたたび使命を引受けるまでは。そして少女あずみには、男を斬る使命と同時に「女ではない」ことを証明し続けることもまた課せられているように思える。あずみが最初に殺すことを強いられたのは、ほのかな恋の芽生えを感じさせる仲間の若者であった。旅役者の娘から着せてもらった桃色の着物は脱ぎ捨て、クライマックスの対決では、両性具有的なナルシスト(「女のなりぞこない?」)剣士・美女丸の首を切って落とす。撮影当時は17歳だった上戸彩の透明感のある少女らしさが、「女ではない」あずみに現実味を持たせている。続編「あずみ2」(金子修介監督、2005年3月日本公開)ではあずみの恋と心の成長が描かれるということだが、果してあずみは誰を斬ることになるのだろう。

北村龍平はもともと、インディーズ映画のファンから熱い支持を受けて来た映画監督である。第一回インディーズムービー・フェスティバルでグランプリを受賞した「ダウン・トゥ・ヘル」(1996)、渡部篤朗主演・プロデュースによる中篇「ヒート・アフター・ダーク」(1996)ののち、2000年の長篇第一作、「VERSUS」は世界各地の映画祭で高い評価を得ている。「あずみ」は大手映画配給会社と組む、北村にとっては初めての作品だった。規模の格段に大きい予算や撮影クルーとアイドル俳優たちを扱いきれるのか、配給会社にとってはひとつの試金石であっただろう。残念ながら「VERSUS」に見られた単純明快さとスピード感は、「あずみ」では失われてしまったように思える。特に若者が殺しあうシーンにたびたび重ねられる物悲しくドラマチックな音楽が、現実の戦争と大量殺戮のニュースを日々聞くような御時世には本当にしらじらしく響く。ただ北村はこの関門を無事くぐり抜けたようで、彼がメガホンを取った『ゴジラ ファイナルウォーズ』は12月4日に日本で公開が始まり、海外配給の打診も相次いでいるそうだ。

2005 Nikkei Voice: 「あずみ」・刺客少女のアクションコミック

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